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【VS】袖幕のお話【えあ】



「ねぇ当主様ってば、聞いてます?」
「…用事があるなら扉から入ってこの机の前に立ってから言え、リヒテ」
「別に良いじゃあないですか、形式張らなくったって」
 
暗がりに包まれた部屋の中、壮齢の男が執務机に向かったまま顔を向けるでもなく言葉を吐いていた。
目の前には誰もいないが、斜め後ろの窓に人影が映っている。
月明かりでその姿はおぼろげにしか見えないが、どうやらローブを纏った青年であるらしかった。
リヒテと呼ばれた影は自らが当主と呼んだ男に向かってくっくっと喉の奥で笑うと、そのまま話を続ける。
どうやら場所を改める気はないらしい。
 
「いつ、行動を始めるんです?」
「…まだ、機ではないだろう」
「もう居場所も分かっているのに」
「居場所が分かっているからこそだ。…よりによって騎士団に所属と、
 厄介な事をしてくれたからな。迂闊に手出しすればこちらまで辿られかねん」
「この屋敷には結界があるでしょう」
「魔法騎士団もいる。何を弾みに見付かるかは分からん…不安要素はなるべく抑えねば」
「…ふうん」
 
当主の言葉に、リヒテはただおどけたように肩をすくめる。
慎重過ぎるとも取られる言動だが、今までずっとこうやって来たのだ。
水面下で、悟られぬよう、悟られても辿られぬよう。この家までの道は全て閉ざしてきた。
家の場所は家族にしか分からないようになっている。そういう魔法を掛けているからだ。
しかし万が一という事もある。家族を、家を危険に晒すのはリヒテにとっても本望では無かった。
 
「ま、そうですね。今の騎士団は先の異変で殺気立っているようですし」
「…突然現れた異国、か」
「僕達にはあんまり関係ありませんけどねぇ、外の事なんて。新しい儀式の方法でもあれば良いんですけど」
「テンガン山や騎士団の各拠点が襲われたという情報は耳に入れたが」
「ああ、その事なんですが、彼女は無事だっていう話ですよ?一度は敵軍に捕らえられたらしいですけど、
 無事にお仲間に助けられたみたいですね。魔力の消耗で倒れてしまったとか」
「今のあの娘が扱っている魔力は半分程度に過ぎんからな。…早く蓋が開けば良いが」
「開かなかったら?」
「こじ開けるしかあるまい」
 
事も無げに言い放った言葉を聞いて、まぁ、ですよね、とリヒテは口をにたりと笑ませた。
大事な大事な本家の末娘。彼女の魔力はまだ安定していない。
あの両親がどのように育てたのかは知らないが、彼女は魔力の扱いがてんで下手だった。
ただ、その身に秘めている魔力は膨大だ。いや、膨大であって貰わなくては困る。
それはこの家が何百年と時間を掛けて蓄積させてきた、血と生贄から成り立つ魔力なのだから。
別に潜在的な魔力さえあれば跡継ぎを生ませるには申し分ないが、
やはりある程度は表面に出ている魔力は多い方が良いだろう。
彼女がこちらが機を待っている間に成長してくれれば良いものの、そう簡単にはいかないかも知れない。
その時は、こちらでなんらかの手段を使って強引に表面に引きずり出すより他にはないだろう。
それが本人の意思に添おうとも、添わずとも。
かつん、と当主の男が羽ペンを置く音が響く。
 
「世間話はここまでだ。そろそろ自分の仕事に戻れ」
「はいはい言われなくとも、シュトラフ叔父さん」
 
にこり、とリヒテが笑むと、シュトラフと呼ばれた男が眉間に皺を寄せる。
どうやらリヒテにとって、目の前の男は叔父らしい。小さく溜め息を付くと、
シュトラフはくるりとようやく身体と顔をリヒテの方に向けた。
 
「言葉遣いには気を付けろといつも言っている筈だが?」
「だって僕の叔父さんに違いはないでしょう。それに、貴方は本当は当主よりもこちらの方が好きなのでは?」
「何のことだ」
「…いえいえ、自覚が無いならそれはそれで」
 
そう飄々と言い残して、訝しげなシュトラフの視線から外れるように影はすっと姿を消した。
釈然としないまま、シュトラフは改めて机に向かい、ペンを手に取る。
…リヒテという男は、分家でありながらも本家に勝るとも劣らない力と良く回る頭を持っていた。
だがそれ以上に、家に対する執着、信奉が一族の中でも抜きん出ている。
分家が本家の失敗例を見てより一層教育に力を入れたせいらしいが、
それはどうも、ある種純粋過ぎるスフォルツァンドらしさに思えた。
と言っても、それはある程度、壊れてしまわなければ成せないものだが。
 
「…私も同じようなもの、か」
 
自嘲気に口元を歪めながら、シュトラフは紙にペンを滑らせ次の儀式の術式を書き上げる。
愚弟と愚妹の後始末は、当主であり兄の自分がしなければならないだろう。
家族の為、この家…スフォルツァンドの為にも。
 
暗澹と空気を澱ませながら、
部屋にはただインクを引く音だけが響き続けた。
 
 
 
 
 
******
 
 
今チェアの実家もといスフォルツァンドさんち何してるの?っていうお話。
両親がいなくなってしまった為、チェアを跡取りとして家に連れ戻そうと以前から彼女を探しており、
ようやっと見つけたと思えばそこは仲の宜しくない騎士団の中、
しかも今回の異変で騎士団は殺気立ってるし、しばらくは様子を見るか…っていう状態です。
スフォルツァンド家については大体【付箋】を参考にして頂ければ分かる感じですが、
彼らにとっての連れ戻すは本人の意思も関係なく誘拐に近い手口になります。
ちなみにリヒテは分家の長男。シュトラフは当主でチェアの両親の兄。
 
 
 
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