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【白黒】ねねのむかしのはなし

ねねが死んで幽霊になってからの少しの独白。
軽いまとめも兼ねてるので色々と端折ってます。
大体の流れと心情程度で見て頂ければ良いかなと…!











死んでしまって幽霊になってから、わたしは彼の側に居ることに決めた。
彼にはわたしが見えないし気付いてくれないけど、せめて彼の行く末を見届けたかった。
もしかしたらそれは建前で、やっぱり本当は彼の傍に居たかっただけかも知れないけど、
それでも、とにかくわたしは彼を見守っていこうと思った。

最初は、彼はわたしのことを悲しんでくれて、それはとても、見れるものじゃなかった。
抱きしめようとしてもすり抜けてしまう。慰める言葉は、きっと彼に聞こえる言葉じゃなかった。
どうしようもなくてわたしが立ち尽くしている時に、そんな彼に優しく手を差し伸べる人が現れた。
それは、確か彼の近所に住む女の人だった筈だ。
彼は落ち込みながらも、なんとか差し伸べる手を掴んで立ち上がった。
わたしは、それをただ見ていた。見ているしかなかったから。
わたしには何も出来ない。彼を慰めることも、手を差し伸べることも、
一緒に歩くことも、できないから。
だから、わたしは彼女に彼を託す事にした。
 
彼女と彼は、すぐに仲良くなった。
わたしが忘れられるみたいで寂しかったけれど、
いっそ忘れてくれた方が良いんだと気付いてからは、そっと見守る気持ちだけが残った。
きっと、つらいことは忘れてしまった方が良い。
彼にとっての幸せな今を、大切にして欲しかったから。
わたしのことは忘れてしまっても良い。
開かれなくなったアルバムや文通の手紙を見て、悲しくないわけじゃないけれど、
それでも、彼が幸せになるんだったら、それでよかった。
 
 
彼女と彼は、願う通りに幸せになった。
結婚式を上げて、
子供が出来て、
幸せな家庭を築いて、
それは、とても。
 
…そのうちに彼は老いて、ベッドに居ることが多くなった。
そっと傍らに佇んで、わたしももうすぐ消えるのかな、と思う。
わたしの未練は彼の最期を看取ることだったから。
彼の命は、きっとあとすこしだった。
 
そして、春の日の夕方。ちょうど家には誰もいない時に、彼は最期を迎えようとしていた。
傍にはわたしだけしかいなくて、なんだか独り占めみたいね、
なんて、聞こえない声で呟きながら彼のベッドの横に立った。
彼の手を握ろうとして、透けてめりこんでしまう。当然だけれど、ちょっと寂しかった。
ふと、焦点の合わない彼がこちらを見た気がした。
気のせいだろうと思っていたけど、そうじゃなかった。
彼はこちらを見ていた。
彼は、わたしを見ていた。
 
「あぁ…ねね、……すま、ない」
 
掠れてしゃがれた声がわたしを呼ぶ。
それだけで、本当にそれだけで十分だった。
覚えていてくれた。名前を呼んでくれた。
それがじんわりと渇いた心に染み渡っていく。
あぁ、こんな、奇跡みたいなこと。
 
「…いいの、あなたが覚えていてくれたから」
 
聞こえているのかは分からないけれど、彼は皺だらけの目元に涙を流していた。
ああ、彼はずっと気に病んで居たんだろう。わたしの事を。
彼は、優しいひとだから。
でも、それも終わる。
と、彼が再び口を開いた。
 
「どうか、…どうか、幸せになって、くれ」
 
え、と通る筈のない空気が口から漏れる。
しあわせになってくれ。それはどういう事だろう?
聞き返す前に、彼はそっと瞼を閉じてしまった。
彼の名前を呼んでも、もう何も彼は言ってくれなかった。
 
彼の間の際の願い。
それは、きっと叶えなくてはいけないもの。
幸せにならなくてはいけない。
でも、どうやって?
わたしは、もう、死んでいるのに?
考えて考えて考えて考えて、わたしはいつの間にか彼のお墓の前に立っていた。
彼はもう名前を呼んではくれない。
幸せを、探さなくちゃいけない。
 
 
 
そうしてわたしは、長い長い旅に出ることにした。
 
 
 
 
それはきっと、終わりのない旅
 
それが分かっていたから、だから私は忘れてしまったの


 
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