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ぬうっと伸びてきた腕は首に向かい、大きな掌が首を掴んだ。
徐々に少しずつ、握る力が込められる。ぎゅうぎゅう、ぎゅうぎゅう。息が苦しくなってくる。
でも、その痛みよりもなによりも苦しそうなのは、手に力を込める彼だった。
泣きそうな、悲しそうな、迷子の子供みたいな目をして、彼は手に力を入れる。
ぎゅうぎゅう、ぎゅうぎゅう、
酸素がいよいよ足りなくなって、喉からひゅーっと変な音が聞こえた。
苦しくて、意識が遠のいて視界が白んで霞む。
けど、それより、と、
私は手を彼の頬に伸ばして、掠れた声で
「だいじょうぶ、ですよ」
とだけ言った。大丈夫。私は大丈夫だから。
そう精一杯に乗せた言葉は彼に届いたのだろうか、
びくっと彼は驚いた目でこちらを見て、動揺したように言葉にならない息をいくつか吐いてから、ぱっと手を離す。
一気に酸素が入ってきて、思わず咳き込む。肺が少し痛いけれど、まだ生きてはいる、らしい。
ふと息を荒げながら見上げると、彼はひどく憔悴した顔で自分の手とこちらを見比べるように眺めていた。
その心の中は分からないけれど、私はゆっくり息を整えて、ふらつきながら彼の方に向かい、抱き締める。
あんまり力は出なくても、精一杯に腕に力を込めた。ぎゅうぎゅう、ぎゅうぎゅう。
彼の口から漏れた微かな言葉が耳に入る。
「なん、で、」
理由なんて決まっていたから、
私はそっと笑って答えた。
「あなたが苦しそうなのは、私がいやなんです」
(だからどうか、そんな顔をしないで)
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首絞めネタがしたかった夜半遅くの衝動書きシルチェア。
貴方がどれだけ過ちを犯したとしても、私は受け入れて許すから。
そういうちょっとしたお話。
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